物価安、給料安、金利安、円安の日本

物価安、給料安、金利安、円安の日本

加谷珪一、谷本真由美、永濱利廣

 日本は欧米に比べて物価が40%くらい安い。円安は2022年中ごろから始まった。1ドル115円から2024年前半には1ドル150円になった。円安の原因は日米の金利差である。アメリカは2022年3月から金利を5%に引き上げた。日本の金利は0.25%だった。投資家は円を売ってドルを買った。円安は物価の裏返しである。1995年日本物価はアメリカの1.8倍であったが、2022年には0.7倍に下がった。ビッグマック指数では、2000年アメリカのビッグマックは240円、日本は290円。2022年7月ではアメリカ710円、日本は390円である。アメリカは物価上昇した。結果、円安になった。円を710円出さないとビッグマック1個が買えないのだ。2022年アメリカは急激なインフレになった。コロナ禍からの急回復、人手不足、ロシア制裁によるエネルギー価格高などの複合理由による。為替レートの円安は、物価の動きに連動している。その背景には日本銀行の金融政策がある。

 日本の物価は、労働者が転職したがらない事、中小企業(日本の企業の99%占める。国内商売が85%占める)の利益が出ないので給料が上がらない事などにより、欧米ほど給料は上がらない。労働者が非正規社員化を恐れ、雇用を重視しており、輸入品物価上昇を加味しても、物価、給料とも安い国である。

 2024年1ドル150円の円安により、輸入資源・原材料高により食品価格は据え置くが、内容量を減らす生活貧困化が進んでいる。また、自動車のようなグローバル価格商品は、国内価格が上昇している。トヨタ車の2014年平均価格250万円は2024年には350万円に1.4倍になっている。トヨタは国内で売るより海外で売る方が儲かるのだ。しかし、トヨタの国内生産は、6割を海外向けにしている。年間販売1000万台のうち国内販売は18%である。海外自動車価格は上がる一方である。自動車価格が平均350万円となると、最近よく指摘される若者の車離れも、大半の理由は経済的なものと考えられる。日本人の平均年収は430万円なので、350万円の車は、年収の8割に上がり、もはや自動車は富裕層の購入品になった。普通の人は、トヨタヤリス160万円か中古車か120万円軽自動車に乗るようになった。

 円安インフレ地獄で、政府・日銀は苦しんでいる。日銀は大規模緩和策を維持する方針だが、このままマネーを供給し続ければ、円安は進行する。景気を犠牲にしても(倒産件数が増えても)緩和策から脱却するか、インフレによる貧困化を受け入れて緩和策を継続するか選択を迫られている。

 欧米の中央銀行は金利を引き上げてマネーを回収するモードに入っている。ドルの価値が上がり円安ドル高が進む。今回の円安は輸入価格の上昇をもたらし、国民生活に悪影響及ぼしている。円安は見かけ上の売上高と利益は増大するため、過去最高利益などと言うが、製造業の営業利益率はマイナスとなっており、円安で儲からなくなっており、物価を上回る賃金上昇は困難である。

 日銀の金融政策の変更ー金利引き上げは円安を回避するが、その選択も難しい。金利を上げると企業倒産が続出、住宅ローン破産者が増加、政府の利払いが急増するため増税が不可避になるためである。日銀は賃金が上がらないかぎり、大規模緩和を継続するとしている。しかし、円安下においてインフレを超える賃金上昇は難しい。日銀の金融政策はあまり変更されない事態が有り得る。