通貨価値の安定は経済成長の手段であって目的ではない

通貨価値の安定は経済成長の手段であって目的ではない

経済で読み解く大東亜戦争 上念司

朝鮮戦争が終わると、当然、特需の反動減による不況が来た。この時、池田勇人とその経済ブレーンの下村治の貢献が高度経済成長をもたらした。当時の日銀の都留重人は、オーバーローンの是正が金融の正常なあり方といっていた。政府や日銀は通貨価値の安定にこだわって金融政策を引き締め気味に運営した。これに対して、下村は「日本の経済成長が国民の健全な生産能力の増強によって支えられているかぎり、通貨の均衡が破れたとしても病的なインフレは起こらない」と主張した。通貨の安定(現在は1ドル150円の円安である)は、経済の健全な発展にとって、手段であって目的ではないと言ったのだ。下村は東大経済学部を卒業し大蔵省に入省し、アメリカに駐在している時,刊行されたばかりのケインズの「雇用・利子・貨幣の一般理論」を読み込んだ。下村の金融政策の基本方針は、①企業の生産力の増加に応じた日銀券の増発を行う事②日銀券の通貨供給方式は、日銀の買いオペレーションを先行させること。その円滑化のために低金利政策(公定歩合引き下げ)を実施し、証券市場の健全な発展を促し、国債発行を主とした財政運営の基盤を築くこと。下村は金本位制の終わりとブレストンウッズ体制への移行を理解していた。日本円は国内の金保有量を気にせず、増やせると理解した。通貨の管理は、国民経済の発展を目指し、単に通貨の安定のみに行われるべきでないと述べた。下村は敗戦によって失われた所得水準やGNPを取り戻すことが目的と考えた。