日本和食文化
(和食とうま味のミステリー 北本勝ひこ)
2013年ユネスコ無形文化遺産に「和食」が登録された。和食は日本で出来た食文化なのだ。和食とは、お米、汁、魚介、発酵野菜の食事である。栄養バランスがよく、健康に良い。
日本は島国で、山が多く、平野が少ない。高温多湿で雨が多い(微生物も多い)。転作が必要な麦作と食用家畜・酪農よりも、麦の5倍の収穫量のある水稲の方が、土地効率がいい。結果、米と魚介、鶏、野菜の食文化になった。古代の神饌料理、平安の大饗料理、仏教の精進料理、室町の本膳料理(かつお節と昆布のだしと醤油、酒、魚、野菜、焼き物、汁物、香の物、飯)、茶道の一汁三菜料理、江戸の天ぷら、すし、そば、うどんの庶民のためのスナック料理と和食が進化した。
味覚は5味(酸味、苦味、塩味、甘味、うま味)あるが、洋食の肉食油脂うま味ではなく、和食は植物系うま味を追及している。アミノ酸系うま味=昆布グルタミン酸と、核酸系うま味=かつお節イノシン酸、しいたけグアニン酸の2系統がある。うま味は昆布とかつおを同時に使うと相乗効果があるという性質がある。赤ちゃんは、母乳にあるグルタミン酸(アミノ酸・タンパク質)のうま味と甘味を選択する。
うま味はひしお(醤)から始まった。食品を長期保存するため、塩漬けにした。そうしたら、空気中にいる微生物(目に見えるカビ=麹、目に見えない細菌バクテリア=乳酸菌、酢酸菌、納豆菌など)がタンパク質やデンプンを食物として、糖、アルコール等有用物やアミノ酸を作り(発酵する)、うま味が出ることが分かった。平安時代はこの大豆と大麦の塩漬け発酵物をひしお(醤)として、調味料にしていた。平安の大饗料理は味付けしない素材食品を4調味料(塩、酢、酒、ひしお醤)につけて食していた。その後、ひしお(醤)の固形分が味噌、液体分が醤油として独立した。味噌は、汁の材料として使われるようになった。
発酵食品は日本酒から始まった。当初は口かみ酒であったが、次に麹で作る日本酒になった。カビのはえたご飯にお湯を加えたら、甘酒になった。当時は分からなかったが、カビがお米のデンプンを糖化した。次に見えない空気中の酵母によって、糖をアルコール発酵(糖→アルコール+CO₂)したのだ。このカビの生えた蒸米を麹(こうじ)と言った。このカビをフラブスという。良い麹菌でないとダメなので、専門の種麹屋ができた。木灰(アルカリ)を入れると胞子の耐久性が高まる、ろ過、火入れ法など、改良を加えて(麹菌の家畜化)遂に、現在、国菌と名付けられた毒素遺伝子が欠落した「オリゼ」麹菌が完成している。
味噌と醤油も、大豆・米・麦に麹菌を使い、うまくいった麹菌を混ぜ合わせて、次に作るというやり方の友種法で作った。デンプン→糖(アミラーゼ)、タンパク質→アミノ酸(プロテアーゼ)。そのうち、白、黄、茶のカビが良くて、青、黒のカビはダメという事が分かった。そうこうして内に、醤油専門の家畜麹「ソーヤ(プロミアーゼ)」が出来た。
発酵という微生物の働きにより、人類は有用な食物、健康な肉体を得ているのである。