論語と算盤 日本資本主義
(お金の日本史 井沢元彦)
日本資本主義の根本は、渋沢栄一の提唱した「論語と算盤」である。商工業の世界に武士道つまり倫理を確立することである。江戸時代は「朱子学の時代」=「朱子学バカの経済オンチ政権」であった。朱子学の経済面の思想は「商売とは人間のクズのやる悪事」ということだった。明治維新5ヵ条のご誓文第2条は「上下心を一にして盛んに経綸(経済活動・商売)を行うべし」とあり、貿易商業立国を目指した。商売は人間のクズがやる悪事という偏見が、商業を蔑視する朱子学の思想が、江戸時代から残っており、これを解消しないかぎり近代資本主義国家になれない。士農工商の差別を解消せねばならない。明治政府は明治2年、四民(士農工商)平等の原則を打ち立てた。
儒教は論語(孔子主義)と宋代以降の朱子学(ネオ孔子主義)がある。孔子は「商売は人間のクズのやる悪事」などと決めつけていない、それをヒステリックに叫んだのは朱子なのである。ならば儒教の根本である孔子の教えに戻ればいい。論語には商売のすすめとも受け取れる言葉がたくさんある。「恒産なくして恒心なし」だからこそ、われわれは定期収入を得られる商売をおろそかにしてはいけないと言う。渋沢は儒教孔子にことよせて、近代資本主義の道徳・倫理を確立した。渋沢は「朱子学の罪」と題する講話で、孔子は商業を悪としなかったのに、その教えをゆがめたのは朱子だと厳しく批判している。「孔子の教えを世に誤り伝えたのは、宋朝の朱子であった。孔子が貨幣富貴を卑しんだように解釈を下し、貨殖富貴を得る者を不義者にしてしまった」。渋沢栄一は日本資本主義の父と呼ばれる。