二宮尊徳の報徳思想
(教養として知っておきたい二宮尊徳 松沢成文)
二宮尊徳の報徳思想は万物の徳(米、水、隣人等天地人のおかげ)に報いるという点で、真理として最終形で完成している。普通の人間の力では、万物の徳に報いるまで、なかなか及ばない。
1.報徳思想
①勤労②分度③積小為大④推譲 分度を守りつつ勤勉に働く。最初は小さな成果しか得られないが、それを継続し積み重ねれば、大きな成果になる。成果が生まれたら、いたずらに浪費するのではなく、それを①家族②子孫③一族のために蓄える(自譲)、④他人⑤社会のために譲る(他譲)することにより、「人間らしい幸福で平和な社会が誕生する」という思想である。推譲とは、余裕が無くても、勤労に励み分度を守り、余剰を生み出し、譲るという積極的な行為をいう。そうした道徳の普及こそ、社会繁栄の道だと考えたのである。しかも尊徳は一生をかけて実践し成功している。
2.尊徳を評価した人々
福沢諭吉は実学重視、数理重視、独立心の尊重で評価した。内村鑑三は「代表的日本人」で5人の偉人の一人に尊徳をあげている。戦後GHQインボーデン少佐は「一人富を蓄えた人は多いが、彼の思想は民主主義の本質がある」と言っている。マーガレット・サッチャーは「人間性とは愛であり、すなわち、推譲です」と言っている。石橋湛山は「尊徳の思想は、書籍を尊ばず、天地を経文とする」と言った自由主義思想であると言っている。
3.尊徳を師と仰いだ日本資本主義の創業者
渋沢栄一は論語算盤説=商業の公益、私益は一つを唱えたが、尊徳の道徳経済一元論と相通じる。安田善次郎は尊徳の報徳記を座右の銘とした。「私が分限者になりえたのは、翁(尊徳)の分限を守りえたからだ」と言っている。砂糖王・鈴木藤次郎は、尊徳の教えが極度に実行的であったので事業に成功した。報徳の教えで社会貢献が目的であると言った。世界の真珠王・御木本幸吉も報徳思想に心酔した。豊田佐吉は、父伊吉が地元に報徳社を創立する信奉者であったので、感化された。「自分ひとりで生きてゆけない。世の中の多くの人のために、お国のためにという考えで、働いて行けば、食物も自然についてくる」といっている。息子の喜一郎も報徳社社長を務めた。松下幸之助も報徳思想の影響を受けている。ただ稼げばよいと考えるのは間違いだと説いている。土光敏夫は「尊徳先生は至誠・勤労・分度・推譲の報徳実践の道を唱えられたが、経済の論理にかなう」と言っている。稲盛和夫は入るを量りて出るを制す、ひたすら日々誠実に懸命に働くことが成功の道と言っている。
日本資本主義の創業者が尊徳を信奉する理由は、①経済を伴わない道徳は戯言であり、道徳を伴わない経済は罪悪であるという道徳経済一元論②報徳仕法の合理性③報徳の実践は単なる禁欲主義ではないこと等である。