石原慎太郎の老境
(石原慎太郎 PRESIDENT)
石原慎太郎は1932年生まれ、88歳である。8年前、80歳のとき、脳梗塞で入院した。早期発見のため、左腕の麻痺があったが、歩くこともできた。この病は、巨大な喪失感をもたらした。大病をすると、己の死期が近かづいていることを、嫌でも自覚する。すると、ものの見方や考え方も変化する。人生には限りがある。生きている時間が愛おしくなる。この世への未練は尽きない。とはいえ、肉体の限界がある。それを、我慢するのも、ひとつの生き甲斐と言える。私は、あくまでも、その時その時の自分の人生を、謳歌するという考え方があるだけある。
死を身近に意識し、死を考える。人間が死ぬと、意識が消滅するのだから、何も知覚出来なくなる。死んだら何も知覚出来ず、意識が無くなる。それを虚無と言い、宇宙空間のような虚無は実在する。私が心の拠りどころとするものに、釈迦が考えた認識をまとめたお経・仏典の、法華経がある。法華経には多くの知恵が詰まっており、実践的な哲学として、釈迦に接することができる。釈迦自身は来世などというものを説いていない。今をどうやって生きるかという事をこそ説いているのである。