歴史から経済法則が分かる
(お金と経済の法則は歴史から学べ! 渡邊哲也)
1.先進国と新興国・後進国の歴史
1)先進国=G7=アメリカ、カナダ、日本、独、仏、伊、英国(戦前からの先進国)
新興国6=ロシア、中国、インド、メキシコ、ブラジル、南ア
後進国(発展途上国)=アジア、アフリカ、ラテンアメリカの大地主制度が残る1次産業の比率の高い経済後進国
リーマン・ショック後、アメリカのグローバル金融機関がFRBから資金援助を受けてから、グローバル金融機関の完全な自由は無くなった。そしてアメリカが弱体化した。フリードマンの新自由主義が敗れた。格差が拡大し多数のプアーホワイトの政治関与の時代になった。
また、中国の低賃金労働者による輸出資本主義大国化およびロシアのリ-マンショック後の資源高による大国化が現出した。同時に中国の南シナ海の内海化、ロシアのクリミア侵攻などの領土拡張・軍事大国化を進めている。
その結果、ロシアおよび中国とアメリカとの関係は、かっての冷戦時代に逆戻りした。第2次世界大戦前の陣取りゲームのように、ブロック経済が復活してきた。米中関税戦争・5G戦争・工場の自国回帰、TPP、EU、イギリスのEU離脱、中国の夢=太平洋2分割、新・海と陸のシルクロード、アシアインフラ投資銀行など。
アジアでは、日本と中国が主導権を争っていて、アメリカが日本のバックについている状況である。日本は23年連続世界一の純債権国で世界にお金を貸している世界の金主である。日本のような武力を持たない国が債権を回収するには、腕っ節の強い用心棒がついていないと、ビジネスモデルが成立しないのだ。軍事大国アメリカと連携するしかない。また、南シナ海のアメリカと中国の陣取りゲームも、そのメインプレイヤーは日本になる。日本は南シナ海のシーレーンの航行の自由がなければ、資源・エネルギーの確保に支障をきたし、且つアジア経済への手がかりを失うのだ。
2)ドル基軸通貨体制 現在の資本主義は、1944年ブレストン・ウッズ体制のドル基軸通貨体制を原型としている。戦後当時、世界の金の8割が米国にあり、ドルを基軸通貨にした。ベトナム戦争を経て米国が疲弊し、1971年ニクソン・ショックで、ドルは金兌換をやめた。しかし、1991年欧州ユーロが出来たとは言え、世界一の経済力と軍事力を背景に、今もドルが世界の金融マーケットを支配している。ブレストン・ウッズ体制は疑似金本位制だったが、今は米国の世界一の国家経済力と軍事力を裏付けに、ドル基軸通貨体制になっている。昔は、金でお金の価値が担保されていたが、今は国富を背景に、お金だけを大量に発行できるようになり、経済の拡大を容易に行うことができる時代になった。
3)日本の金融制度 日本のお金は、半独立性である日本銀行(株式の55%を日本政府が所有)がお札紙幣を発行して出来ている。日本政府の財政事情から、政治家により通貨が野放図に発行されないように、お金の価値を担保している。通貨の価値は通貨発行権と徴税権を持つ国富(2014年3100兆円)である。国民とお金との接点は、普通銀行(都銀、地銀、第2地銀)である。銀行は①お金の貸し手と借り手をつなぐ間接金融仲介②貸出と預金を繰り返して通貨量を増やす信用創造③口座振替で支払いを行う決済をメインの機能としている。
お金を運用する金融機能は、最も長期は保険会社(不動産運用が多い)、銀行は3から5年預かりの中期運用、短期運用は短期売買運用のヘッジファンドが行っている。また、証券会社を中心に企業の株式、債券売買の直接金融もある。1996年の日本版金融ビッグバンをきっかけに、個人と企業をつなぐ株式、債券の直接金融が5割、銀行が間に入った間接金融が3割になった。2001年時価会計の導入をきっかけに、保険会社の不動産運用が不安定化して、不動産売却が増え、2006年には日本の土地の時価総額は1200兆円と半減し資産デフレになった。企業への中長期資金も失われた。また、金融ビッグバンによって、日本銀行が民間金融機関の融資基準となるものを、公定歩合(日銀の貸出金利)から誘導金利(銀行間インターバンク市場で民間銀行はお金を借りる。日銀の決めた誘導金利よりも市場金利が上がったときのみ、日銀が銀行に対する資金の貸し手になる)に変化した。すなわち、金利が固定から自由化された。
4)バブル崩壊 1990年の日本のバブル崩壊は債務は円建てで、海外への影響は限定的であった。今、中国の債務も膨らんでいるが、不動産は人民元建てのみで、バブル崩壊が起きても、限定的になる。
証券会社の信用取引は、自己資金の何倍かのレバレッジ倍率になっている。取引総額は大きくなり、これをフェイクマネーという。真水のお金の60倍位ある。金融危機が起きると、フェイクマネーが解消され、市場から資金がなくなる。貸し手が減って、株式・不動産が売られ、価格が暴落し、バブル(フェイクマネー)崩壊となる。紙幣がいくらでも印刷でき、信用取引でフェイクマネーが膨れ上がり、サブプライムローンのようなインチキ金融商品が多数作られたのが、バブル崩壊の原因となる。
5)海外銀行の新興国投資と円高 1996年の日本版金融ビッグバンで金融が自由化され、日本企業を海外企業が買収でき、世界最大の債権国の日本の資金が海外に流れていく仕組みが完成した。海外銀行は低金利の日本円を借り、ドルに替えて、新興国にハイリスクの短期資金投資をする。新興国は成長率が高く、金利も高いので、為替が変動しなければ、高利ザヤが取れる。一方、新興国はリスクも高いので、利益確定のため、現地通貨建てなら現地通貨を売って、円を買う動きが生ずるので、円高が促進される。
新興国リスクの1つに原油安がある。原因は中国の景気減速とアメリカがシェールオイルで世界一の生産国になり、貯蔵タンクが一杯になり40ドルから20ドルへ値下がることからくる。スポット価格が値下がると、世界経済が悪化する。新興国は資源輸出が国の経済を支えているところが多い。こういう国は中東に限らず、ブラジル、チリ、アルゼンチン、エクアドルなど南米にも多い。
6)長期での新興国現地通貨建て債券ファンド(投資信託)の損失・失敗の理由 10年以上新興国債券ファンドを保有して、繰上げ償還に会い、最終的に損をした。ファンドの概要 新興国現地通貨建て債券マザーファンド 組み入れ上位10銘柄(すべて国債)インドネシア、ペルー、ブラジル、メキシコ、南アフリカ、ポーランド、コロンビア、トルコ、チリ、ロシア 1万口当たりの費用明細 0.138% 扱い 国内銀行系投資信託会社
損失・失敗の理由
①為替市況 新興国通貨は全体として対円で下落して利ザヤが縮小。
②新興国債券は一見金利が高く見えるが、高インフレのため、実質金利では、それほど魅力がない。
③高インフレの通貨は、中長期では、下落する可能性が高い。高い金利が通貨安で相殺される。新興国債券は、短期投資なら、ギャンブル的にいい時もあるが、長期投資はほとんど損をする。
④中国の経済減速化が、資源を貿易の中心にしている新興国の成長に悪影響を与えている。中国GDPがリーマンショックを境に、日本を追い抜き、1.5倍になった2013年に、習近平主席がオバマ大統領に太平洋2分割案を提案したのを境に、中国経済が低落している。この時、新興国の資源経済低迷を読んで、新興国債券から手を引くべきであった。