稲盛和夫の経営問答
稲盛和夫は1万人の塾生をかかえる経営塾「盛和塾」をやっている。稲盛さんの書籍は実学とかアメーバ経営とか抽象的でわかりづらいものが多い。しかし、この経営問答は悩みとその解決法という構成になっているので、シンプルで分かりやすくて良い。
1.ビルメンテナンス業 2代目。内訳はメンテナンスが9割、コンピュータシステム等が1割で、利益率3%、優先してやる事がわからない。
(回答)現場に出て、泥まみれになって仕事に精通する。事業をよく理解していない。ビルごととか場所、時間ごととか採算単位を細分化し、儲かっているか、赤字かを理解し、それぞれの部門で利益が出るようにする。事業をボーナスや賃金に反映してはならない。意欲がなくなる。京セラでは功績を賞賛し精神的な栄養をあたえている。素晴らしい業績には栄誉と賞賛を与え、報酬で大差をつけない。最低でも1割の利益を出す。無理と思うから出来ないのだ。「売上を最大にし、経費を最小にする」というシンプルな原則を貫くことです。
2.印刷業 3代目。資本金1000万円、正社員・パートは40人,年商4億円。地元シェア50%。勝ち残るには投資が必要。方針は①シェア拡大営業力強化②生産力の強化③新社屋建設ですが。
(回答)①は大いに工夫すべし②は注意が必要。印刷機械の減価償却期間を5年から10年に伸ばし、毎年5%以上の経常利益を出すことが至上命題となる。③は「本社はオンボロでもよい」。外見が悪くとも、印刷機械さえ立派であれば、事業に差し支えない。京セラは創業40年で年商7000億円になって、本社らしい本社を建てました。
3.多角化 中小企業は1つの事業の盛衰により、会社の命運を左右されないよう多角化が必要となる。
(回答)しかし、新規事業の競争相手は専業でその事業に社運をかけている。力を2分してライバルに立ち向かったら勝ち目はない。多角化は本当に難しい。
①多角化に失敗しても耐えうる財務体質の強化②既存事業を高収益にし財務基盤を確立する③経営者は人並みはずれた情熱を持つ③経営者は「有意注意」で意識を集中し、瞬時に判断し、誰にも負けない努力をする。④得意技の延長か、飛石か。中小企業はまず得意技の延長で。
4.書籍雑貨の小売店。資本金4800万円。従業員500名。店舗数34店。売上高100億円。出店に伴う借入金が増加。方針は?
(回答)売上の大きさを追わず、店舗ごとの採算を高めよ。新規事業、新規出店は、堅牢堅固な本丸を作り上げた後に。まず従業員を守っていけるだけの十分な収益を上げられるよう、既存店の赤字をなくし、採算を向上させなければならない。足るを知った上での発展が事業の永続をもたらす。まず、既存店の収益性を高める。
5.プレス試作品メーカー 2代目。従業員150名。資本金2000万円。マーケット縮小に備え、新分野に進出したい。第2の柱を作る留意すること、実行することは?
(回答)多角化という死屍累々の坂道を行く。京セラの場合、ブラウン管の絶縁部品からスタートした。いつか使われなくなるという危機感があった。顧客を回り、今までやった事のない製品でも「できる」といって、半年後に試作品提出と言って受注し、開発した。その繰り返しで新市場、新分野を開拓しました。自分の得意技の延長で多角化を進めるべきです。決して飛石を打ってはいけない。相手に切られないように、今生きている石につないで、多角化の手をうちなさい。人間の能力は無限であると信じて、経営者トップが先頭を走り、みんなをひっぱてゆかねばならない。
6.経営理念 パートナーシップで経営する。京セラ経営理念「全従業員の物心両面の幸福を追求する。社会、人類の発展進歩に貢献する。」労使の立場を超えて一致団結する。京セラ流コンパという飲み会を開いた。経営者と従業員という対立構造ではなく、「全員参加経営」とした。パートナーだからこそ、全従業員に株式をもってもらった。
7.ガソリンスタンド24軒、その他計29軒。規制緩和で粗利半分に。人件費の削減に取り組まざるをえない。年功給6割、業績給4割で、社員の収入に大差なしの状態。業績連動はどうか。
(回答)人心を乱す業績スライド給は逆効果。一律賃下げを理解してもらう。ドライなはずのアメリカでも、下がるときは反発。感情が優先。危機感を持ち、賃上げ凍結を決めた京セラ。
8.100人以上の従業員になると、経営者1人では難しい。片腕となる人材を育成したい。
(回答)小集団(京セラでは20人単位の班でアメーバと呼んだ)に分けて経営者意識を芽生えさせる。分社より事業部制に。従業員に経営者と同じ意識を持ってもらうには、会社経営や事業展開に興味をもらう。若い人を登用して育てる。感謝の気持ちを忘れずに、叱咤激励する。
9.経営管理とは、管理会計で対応した。
(回答)携帯電話セルラーをはじめたとき、アメーバ(事業部分割)経営管理をした。管理会計です。携帯電話の事業を分析し、契約事業、通話オペレーション事業、レンタル事業、付属品販売事業という4つの事業単位にわけた。それぞれの事業の売上と費用と利益を出す。独立した採算管理をした。採算の実態を、責任者だけでなく、全従業員に開示し、採算意識を共有する。
10.コンパは人間関係を築く好機。いつも苦労をかけているので、夕食代くらいおごる。京セラのコンパは騒いだり憂さ晴らしをするのではなく、人生について、仕事について語り合う飲み方、こころのコミュニケーションだ。面白い酒宴でないので、面白くないという人もいたが。
11.高収益の必要性
(回答)創業したとき、税引き前利益が300万円でた。ところが、税金を納めると半分しかのこらない。その上、役員賞与や配当を出せば、手元に残るのは、100万円である。恩人に借金を早く返すために、高収益を目指した。世の中、いつ不測の事態が起こるかわからない。将来にわたって、経営を安定させ、従業員の雇用を守るため、会社は高収益でないといけないのだ。稲盛社長時代は税引き前利益は常に20~30%であった。その他、株主に高配当をだす、キャピタルゲインをもたらし報いる。新規事業展開の選択肢、M&Aなどのためにも、財務体質が強い必要がある。1984年に第二電電を創業した時、京セラの手元資金は1500億円あった。
12.高収益の原動力
(回答)経営者自身が「自分の会社を何としても高収益にしたい」という「こころの底からの強い願望」が必要である。昭和40年ころ松下幸之助さんが講演会で、ダム式経営の話をされた。そのとき、「まず、余裕ある経営をしたいと、こころから思わなければ、ならない」と理解した。人間はそうしたいと強く願わなければ、何事も成就できないのだ。実際、盛和塾生はそう思う人が増えてきて、目標を達成する会社が100社を上回るようになった。
稲盛和夫さんは、松下幸之助の政経塾をまねて、盛和塾を作ったと思われる。