やさしい経済学
(池上彰のやさしい経済学)
池上彰は分かりやすく伝達する技術に長けている。経済学についても、やさしく解説している。
1.経済学とは ①経済活動を分かりやすく科学的に分析する一般理論と②その時代その時代の問題に応じた処方箋と2つに分かれる。
2.近代経済学はマクロ経済学(国レベル)とミクロ経済学(個人、企業レベル)に分ける
3.一般理論
①ものの値段(給料も含まれる)は需要と供給によって決まる。需給ギャップが問題になる。需要は安いものや美しいものなど色々な好みによって異なる。<アダムスミス>
②分業 分業は生産性を高かめ、富を増やす手段である。分業は利己心で成立する。ものの値段も、利己心の需要と供給によって決まる。これを神の見えざる手という。<アダムスミス>
③政府の3つの役割 経済が効率化する自由放任がいいのだが、政府でないと出来ないことがある。国防、司法裁判、道路河整備の公共事業である。<アダムスミス>
④自由市場の失敗 独占、環境公害、情報の非対象性(売り手の隠蔽)
⑤景気動向指数 先行指数(求人指数、住宅・耐久消費財需要指数)、一致指数(電力使用量、労働時間、商業販売)、遅行指数(失業率、消費支出)の3つがある
⑥GDP(グロス・ドメスティック・プロダクト=国民総生産) GNP(国民総所得)、国民総支出と同じ。3面等価の法則。GDPは原材料に付加する原料メーカー、製造組立メーカー、販売店の付加価値の合計です。
⑦お金は市の物物交換から始まり、価値表示の交換手段となった。最初は金などであったが、今は政府が発行する中央銀行紙幣になった。
⑧銀行は両替商、お金の預かり振込み機能、為替決済機能、金融商(お金を預かり利子を出し、担保を取りお金を貸し利子を取る)、融資した企業の銀行預金によるお金つくり=信用創造機能がある。
⑨参入障壁 ものの値段は需要と供給によって決まる。参入障壁を低くして、参入する企業を増やすと、もの(給料も)の値段は下がる。例えば銀行業界は外国銀行や他業界からの参入が許される自由化が行われたので、利益が少なくなり、銀行員の給料も下がっている。
⑩比較優位 イギリスのリカードが発見した自由貿易主義の原理。各国の得意分野を輸出しあうと両方の国にとってよいという原理。分業体制をとったほうが、全体として生産性があがるため、自由貿易が良い。ただし、自国産業も守らねばならない。
4.経済思想の歴史と経済の処方箋
①絶対王政国家時代の、国家による関税と自国産業保護の重商主義や富の源泉を生産とくに農業に求める重農主義に対して、イギリスのアダムスミスは労働が価値を生み出す源泉と考え、労働の生産効率を高める(分業、設備投資、資本蓄積、自由市場競争、経済政策は統制介入を排除し、見えざる手による市場原理にまかせる)ことによる国富増大を目指し、リカードの自由貿易主義も加わえて、イギリス産業革命、資本主義社会の理論的支柱になった。
②資本主義の自由競争は植民地獲得の帝国主義に転化した。資本主義の無制限な競争、古典派経済学の自由放任主義に対して、ドイツのマルクスは資本主義社会では独占と失業者・格差社会を生むとして、社会主義計画経済を主張した。ソ連、中共など社会主義国が生まれたが、自由競争が無くなり、社会主義は崩壊した。また、1929年の世界恐慌から、イギリスのケインズの修正資本主義・公共事業・累進課税で景気回復政策が生まれた。ケインズ政策も投資の乗数効果で初期は効果大であったが、大きな政府になり、財政赤字が増え、インフレになる問題点が出てきた。これに対して、アメリカのフリードマンは、ケインズは間違っていたと主張し、新自由主義を唱えた。絶対的自由を自己責任でやるべきと唱えた。社会保障(年金、健康保険など)はいらない、輸入関税、輸出制限も要らないなど主張し小さな政府を目指した。また、世界恐慌に対しては、貨幣を大量に刷って出すお金の量をコントロールをするマネタリズムの立場を取っている。新自由主義も労働者派遣法など弱者対策問題で批判が高まっている。
③トランプ大統領の政策 私が考えるに、米中関係の悪化から、米国は重商主義に戻ったのではないかと思う。関税と自国産業保護である。トランプ大統領は自由貿易が成り立つには、2国間に公正なルールがないといけないと言っている。中国は為替、特許権、国内法など不公正で、国防、裁判、国際覇権などでも対立するとして、冷戦に突入している。