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(面白いほどよくわかる能・狂言 三浦裕子)
能楽とは能と狂言のことである。能楽は奈良時代に西域・漢から散楽(サーカスのような雑芸)として導入され、平安時代に猿楽(喜劇)になり、室町時代、3代将軍足利義満の庇護を受けた観阿弥、世阿弥親子により、夢幻能という幽玄の世界を表現した能が完成した。狂言も猿楽より出て庶民の日常を扱った会話喜劇となった。
能は仮面歌舞劇である。能は1日限りの公演が原則である。プログラムは正式には翁能+能5曲+間に狂言の1日がかりである。現代では夕方から狂言1曲+能1曲の形も多い。専門の能楽堂もある。例えば、名古屋能楽堂は客席630席、定例公演では、無料のイアホンガイド(日本語、英語)をつけている。
1.能
1)能の演者と後援者
流派は大和猿楽4座+江戸時代の1座=観世(観阿弥、世阿弥)、金春(世阿弥の娘婿)、宝生(ほうしょう、観阿弥の長兄)、金剛(法隆寺の1座)、喜多(金剛から出て、2代徳川秀忠の支援うける)の5流がある。
①観阿弥(1337-84年) 室町3代将軍足利義満の支援うけた観世流初代。
②世阿弥 観阿弥の子で2代。作品(高砂、忠度、井筒など)、能楽論(風姿花伝、花鏡など)を書いて、幽玄能を完成した。
③金春流能 豊臣秀吉は自ら金春流能の舞いに熱中し、大和猿楽4座を保護した。
④江戸時代徳川家康、秀忠も保護した。元禄時代5代綱吉、6代家宣も保護した。
⑤明治9年、岩倉具視は天覧能を開催した。演者は梅若実、宝生九郎だった。
2)能のプログラムと代表作品概要
翁付き5番立
(神事、祝祭の舞い) 題名<翁おきな> 前シテ(能役者) 神の化身として翁太夫が天下泰平の舞いを舞う。後シテ ついで三面三(狂言役者)が五穀豊穣を祈る舞いを捧げる。 <翁>は新年や舞台披きに上演される。
1番 脇能 題名<高砂> 前場は長寿と夫婦愛、後場は住吉明神の天下泰平を寿ぐ舞いである。脇能(翁の脇)の代表曲である。
シテ(主役) 老人(松の精)、住吉明神 ツレ(連れ) 姥(松の精) ワキ(脇、相手役) 神主友成 ワキツレ 従者 アイ(狂言方が演ずる役割、前場後場のつなぎ役) 所の者(近隣に住むもの、言われを話すことが多い)
ーこの後(脇能の後に、狂言が入ることが多い)ー
2番 修羅能 ①題名<敦盛>
前場シテ/草刈男 後場シテ/平敦盛の霊 ワキ 法師(熊谷直実) ツレ 同行の草刈男 アイ 所の者
前場 一の谷で法師は草刈男に会い話する 後場 法師の夢の中で、敦盛の霊が現れ討とうとするが、供養を頼んで消え去る
②題名<忠度ただのり>
前シテ 尉(老人) 後場シテ 平忠度の霊 ワキ 旅の僧 アイ 須磨の浦人
前場/桜の下で尉が旅の僧に忠度のゆかりと言う 後場/(僧の夢の中)忠度が現れ和歌の読み手が不採用を不満という。僧に回向を頼み消える。
3番 鬘能かずらのう ①題名<井筒>
前シテ 里女 後シテ 紀有常の娘の霊 ワキ 旅の僧 アイ 里男 その
前場/在原寺で旅の僧と里女が会い話す 後場/その夜、夢の中で、女が在原業平の形見の装束を身にまとい舞う。夜明けに姿を消す。
②題名<羽衣>
シテ 天女 ワキ 漁師 ワキツレ 同行の漁夫
三保の松原で漁師が羽衣を見つけたが天女に返す。お礼に天女が舞いを舞う。
4番 雑能 題名<道成寺>
前シテ 白拍子 後シテ 鬼女(蛇体) ワキ 道成寺の僧 ワキツレ 従僧 アイ 能力
前場/供養の舞を舞う白拍子が鐘の中に飛び込む。後場/僧が経を上げると、鐘の中から鬼女が現れるが、調伏に日高川に身を投げる。
5番 切能(フィナーレ) 題名<船弁慶>
前シテ 静御前 後シテ 平知盛の霊 子方 源義経 ワキ 武蔵坊弁慶 ワキツレ 従者 アイ 船頭前場/西国に逃げる義経は静御前と別れる。静御前は別れの舞を舞う。後場/出船すると、平知盛の霊により暴風になる。義経は祈祷し、知盛は姿を消す。
2.狂言
1)狂言の演者と後援者
1300年前、藤原京で散楽戸を設ける。1000年前、平安時代笑いを主とした猿楽が祭で演じられる。600年前、近世の室町時代(1400-1580年)、京都御所をバックに和泉流、奈良・春日大社をバックに大蔵流が出る。400年前、江戸幕府の式楽になる。100年前、明治時代、東京に和泉流・野村家、京都に大蔵流・茂山家が出る(狂言は血筋で継いでない)。2次大戦後、時代背景から、日本の大衆演芸として高評価される。
2)狂言の分類と代表作品概要
①祝言狂言
・題名<福の神>
シテ(主人公) 福の神 アド(相手役) 参詣人 2人
大晦日の夜、参詣人に福の神が神酒を要求。お礼に金持ちになる秘訣をいう。早起き、他人にやさしく、客を拒まない、夫婦仲良く、福の神に供物と神酒を上げる事。
・題名<末広がり>
シテ 果報者(お金持ち) アド 太郎冠者 アド 売り手
果報者は太郎冠者に、都で末広がりを買ってくるように言う。太郎冠者はどういうものか知らない。いかさま売り手が古唐傘を売りつける。そして、お囃子を教える。帰って、果報者は腹を立てるが、太郎冠者が教えてもらったお囃子を歌い舞うと、主人も舞い踊り、許す。
②大名狂言
題名<靭猿うつぼざる>
シテ 大名 アド 太郎冠者 アド 猿曳さるひき 子方 猿
大名が弓矢をもって猿曳に猿を渡せという。渡そうとするが、猿が無邪気な芸をするので、猿の命を助ける。お礼に猿歌を舞うと、大名も一緒に舞い、ほうびを取らせる。
③太郎冠者狂言
題名<棒縛り>
シテ 次朗冠者 アド 太郎冠者 アド 主人
留守番に酒を飲まれないため、主人は2人を縛って出かける。2人が工夫して酒蔵で酒をのんでいると、主人が帰ってきて、追いかけて終わる。
④聟(むこ)狂言
題名<舟渡聟>
シテ 聟 アド 舅(しゅうと) 船頭 アド 太郎冠者
船頭(実は舅)は、酒を持ってきた客(聟と知らない)に酒が欲しいと言い、2人で酒を飲んでしまう。舅の家に行くと、お持たせを開けるという。空なのでむこ殿が逃げ出す。舅は気にされるなと追いかける。
⑤女狂言
題名<鎌腹>
シテ 太郎 アド 仲裁人 アド 太郎の妻
鎌を振りかざした妻が太郎を追う。怠け者の亭主に山に行って働いてもらいたいという。仲裁人が入ると、太郎は腹を立て、鎌で切腹するという。結局、太郎は死ねずに山に向かう。
⑥鬼・山伏狂言
題名<神鳴かみなり>
シテ 雷 アド 医者
雷が地に落ちて腰を痛めた。医者に治療を頼む。鍼(はり)治療をして治る。医者が治療代を請求すると、典薬頭にしてやる、旱魃や水害のないようにすると約束し、舞ったあと、帰る。
⑦出家狂言
題名<宗論>
シテ 浄土僧 アド 法華僧
身延山帰りの法華僧と善光寺帰りの浄土僧が旅の道連れになる。相手が分かると改宗を迫る。珍妙な宗論と読経合戦、踊りをするが、お互いに取り違えてしまう。仲直りをして、各々の寺に帰ってゆく。
⑧座頭狂言
題名<月見座頭>
シテ 座頭 アド 上京の者
仲秋の名月の夜、座頭が月見で虫の声を聞いていた。上京の者がやってきて、声をかけ2人で酒を飲み、歌や舞を舞い別れる。jその後、上京の者は悪心を起こし、座頭に突き当たり、転がして逃げる。座頭は「前の者と比べて情けない奴だ」といい、くしゃみして帰る。
⑨雑・他狂言
題名<釣狐>
シテ 狐・化けた出家 アド 漁師
古狐は狐釣りの猟師に困り、猟師の叔父の出家に化け、狐釣りをやめさせ帰る。叔父の様子に不審を感じた猟師は罠を掛け直す。古狐は罠に掛かるが、必死に逃げる。