医療器械・技術の発明発見の歴史25話
西洋医学が病気を診断し、治療が出来るようになったのは、19世紀以降です。近代医学の歴史は、器械・技術の発明・発見の歴史です。(医学おもしろ25話 百島祐貴)
1.診断編
①体温測定 1609年イタリアの医学者サントリオが世界初の体温計を作りました。その後、1868年、ドイツのヴァンダーリッヒが統計をとり、健康人の体温は36.5度前後で一定しているとしました。1866年アメリカの精神内科医オルバットが水銀を使った小型体温計を製作しました。現在は電子体温計が広く普及しています。
②脈拍測定 脈拍の本格測定もイタリアのサントリオでした。振り子装置ではかりました。現在の1分間の脈拍測定法はイギリスの医師フロイヤーでした。1670年、現在のストップウオッチの原型の脈拍測定用時計で測りました。
③血圧測定 1828年、フランスの医者ポアズイエは、血管に針を刺し、水銀柱圧力計を使って、血圧を測りました。1905年、ロシアの血管外科医コロトコフは、「動脈を圧迫する圧力を変化させると、血管の上に置いた聴診器で、最初に音が聞こえる。そこが収縮期血圧(上の血圧)である。さらに圧力を下げると、音が消失する。これが拡張期血圧(下の血圧)である。」ことを発見しました。自動血圧計が普及したのは、1980年以降で、80%が日本製です。
④聴診器 19世紀初め、フランスのラエネクは笛のような筒型の聴診器を発明しました。肺や心臓の病気診断に有効でした。現在のような聴診器は1855年、アメリカの医師キャマンによって発明されました。
⑤顕微鏡 イタリアの商人レーベンフックは、趣味で、手作りの高性能な顕微鏡で、1641年、世界で初めて微生物を発見しました。1687年イギリスの科学者フックが雨滴の中に病原微生物を発見し、正しい事を証明しました。光学顕微鏡は400~600倍ですが、ウイルスを見るには、1931年に発明された電子顕微鏡が必要です。細菌の大きさは1ミクロン=マイクロメートル(1/1000)、ウイルスは1ナノメートル(1/1000,000)です。
⑥細菌感染(感染症)の発見 1871年、ドイツのコッホは、最新のカールツアイス社製顕微鏡を使って、たんそ病の原因の細菌を発見しました。19世紀後半まで、被病者の三分の一が死亡する、原因不明の病気だった結核菌の発見およびブドウ球菌、コレラ菌などを発見しました。多くの病気の正体が、感染症=細菌が病原であることを証明しました。そして、コッホの3原則を作りました。1)患部にその病原体がある2)それ以外にはないこと3)病原体を注射すると、同じ病気が起こること。コッホは第5回ノーベル賞をもらいました。結核の原因は明らかになりましたが、治療法は1944年ストレプトマイシンの発見を待つ必要がありました。
⑦X線を発見したドイツのレントゲン 1901年、レントゲンは第1回ノーベル生理学医学賞を受賞しました。
⑧色覚検査 石原忍は徴兵検査用に「大正五年式色神検査表」を作成しました。1924年アメリカで石原表が最も優れているとされました。
⑨心臓カテーテル検査 血管に細い針を刺し、そこから心臓まで、カテーテルという細い管を挿入して、心臓の血圧を測定する検査法です。ドイツの医師フォルスマンは、自ら実験し、大成功を収めました。1956年、アメリカの心臓内科医とともに、ノーベル賞を受賞しました。
⑩DNA二重らせん=遺伝物質DNAの立体構造の発見 1962年イギリスのワトソン、クリック、ウィルキンスがノーベル賞受賞(ノーべル賞は3人まで、フランクリンがX線解析データを撮影したが死亡)
⑪胃カメラ 1898年、ドイツ医師ランゲとメルツィングが豆電球とカメラで胃カメラを製作。1952年宇治達郎がガストロカメラを商品化した。現在の内視鏡は、先端にカメラをつけたものではなく、先端のCCD素子で光をうけ、ミニターに表示します。世界の内視鏡の90%は日本製です。
⑫CT(コンピュータ断層撮影) イギリスEMI社のハウンズフィールドが1人で作り上げました。CTはX線装置を体の回りを回転させ、コンピュータで断層写真を作ります。医学史上最大級の発明と言われ、診断学の歴史はCT以前と以後に2分されるといわれます。1979年ノーベル賞を受賞しました。最新のCTは0・5秒間に320枚の画像を撮影できる。
⑬MRI(磁気共鳴画像法) 1980年から実用化。X線を使用せず、縦横斜めどの方向でも断面撮影ができる装置です。日本には、MRI4000台、CT1万台が稼動。日本の普及率は世界1です。理由は健康保険制度で料金が安いからです。
2.治療編 本当に有効な治療法が登場したのは、18世紀後半以降です。
①輸血 1667年羊から人への輸血が試みられました。1818年人から人への輸血が行われました。成功率は4割でした。1909年オーストリアで血液型が発見されました。次に、1915年アメリカで血液にクエン酸ナトリウムを加え、凝固を防止する方法が発見されました。
②全身麻酔 1842年アメリカのロング医師がエーテルを嗅がせて手術を成功させました。現在の全身麻酔はセボフルランという口から吸う麻酔薬が主流です。
③日本の麻酔薬・通仙散 1786年、華岡青洲がチョウセンアサガオが主成分の通仙散という麻酔薬を完成させ、手術に成功しました。通仙散は化学成分が一定しないなどの問題点がありました。
④注射器 1844年、アイルランドのラインド医師は金属針とピストンからなる注射器を発明しました。現在の注射器は1950年代にアメリカで開発された使い捨てのプラスチック筒のものです。日本のテルモ社が蚊の針のように細い注射針を開発して、痛くない注射器を作っています。
⑤消毒法 消毒の必要性が認識されたのは、19世紀も半ばになってからでした。1865年、イギリスのリスターは、手術の傷の化膿は、微生物によるものと考えて、石炭酸による消毒で手術を成功させました。現在は、ポイドンヨード(商品名イソジン)が使われています。
⑥免疫ワクチンの発見 天然痘ウイルスによる伝染病(人口の三分の一がかかるような流行病)は、水ぶくれができ、致死率3割の感染症です。しかし、この病気は免疫があるとかかりません(二度なし免疫)。イギリスの医師ジェンナーは、1770年、牛痘を接種する方法を開発しました。1871年の普仏戦争で効果が確かめられました。日本でも仏教伝播とともに上陸し、数々の大疫が起きました。1980年、WHOから天然痘根絶宣言が出されました。
⑦インフルエンザ免疫ワクチン 2009年、スペイン風邪(インフルエンザ・ウイルスA型H1N1型)のパンデミック(世界的流行)が起きました。1年で世界人口の四分の一、5億人が罹患、死者は4000万人(第1次世界大戦死者2000万人)、半数以上が若者でした。1993年、イギリスで、ウイルスがイタチの感染することが分かり、1944年、免疫ワクチンが完成しました。
⑧ペニシリン(抗生物質)の発見 1928年、細菌感染症の研究者イギリスのフレミングは、細菌が別の細菌の繁殖を抑制する抗生現象を調べ、青カビがブドウ球菌の増殖を抑える事を発見し、ペニシリンと名づけました。同じくイギリスのフロリーは、10年前のフレミングの論文を読み、ペニシリンの再発見をしました。1845年、フレミング、フロリー、チェイン(臨床への応用)の3人がノーベル賞を受賞しました。
⑨人工心臓 太い血管系の手術には、一時的に心臓をとめる必要があります。このときの血液循環と酸素送入装置が人工心臓です。1953年、アメリカのギボンは、人工心肺を使った心臓手術に成功しました。開発に23年間かかりました。
⑩心臓ペースメーカー 心臓の拍動は、心臓中の周期的に放電する電気の流れでコントロールされています。この電気の流れが障害されると不整脈になります。日本だけで40万人の患者がいます。スエーデンのセニング医師は1958年、世界初のペースメーカー埋め込み手術に成功しました。現在は小型で10年の電池寿命のあるものが開発されています。
⑪セックス・カウンセリング アメリカのキンゼイは1953年「キンゼイ報告」を出し、人間の性行動を科学的に研究報告しました。1966年アメリカのマスターズとジョンソンによって、「人間の性反応」と言う本をだし、性科学の基礎を作りました。
⑫ピロリ菌の発見による胃潰瘍の治療 胃は食物を消化するため、強い塩酸の胃液を分泌します。胃が溶けないように強力なバリアーも張っています。これが破綻すると胃に穴があく胃潰瘍になります。1982年、オーストラリアのウオレンとマーシャルは、強い酸の中でも生きる細菌を発見しました。さらに、患者に抗菌薬を投与すると8割が完治することを示しました。2005年、二人はノーベル賞を受賞しました。