人生設計
(知的幸福の技術 橘 玲より)
億万長者になることは、誰にでも、できることではない。だが、自分と家族のささやかな幸福を実現することは、難しくない。必要なのは努力と工夫、人生を設計する知識と技術だ。
1.若い頃、幸福が続くと信じていた
経済的な基盤がなければ、人は自由に生きられない。自分の人生が、いかに多くのものに、依存しているかを知って慄然とした。どんな人生にも、確固たる土台が必要だ。この凡庸な、そして残酷な真実を知らねばならない。
2.破滅の時代
21世紀は、将来はますます予測不可能になっている。私たちは見知らぬ世界を恐れている。だが未知への海への航海は、退屈でなく、魅力的ではないだろうか。人生の設計とは、冒険のための海図とコンパスを準備することだ。
3.正義のために生きていますか
現実には、社会の中の無数の人の自由を共存させるために、ほとんどの欲望は、あらかじめ禁じられているのだ。私も含めほとんどの人は、正義のために生きてなどいない。自分と家族の幸福を守るために生きている。理不尽な世界で、私たちは目の前にある問題を、一つひとつ解決していくしかないのだ。
4.退職までに1億円貯められますか
そもそも生涯年収が3億円程度しかないサラリーマンが、年金のために、退職時に1億円の資産を築くことは不可能だ。不可能を可能にするには、博打で勝負するしかない。博打は、素人が身ぐるみはがされることになっている。
5.定年後の生活設計
定年から死ぬまでの必要資金は、70歳の平均余命を20年とし、生活費を年400万円と考えれば、8,000万円の老後資金があればいい。この大半は年金で調達できる。年300万円の年金で、6,000万円。2,000万円の貯蓄があれば、やっていける。年金の大幅減額があっても、生活コストを下げれば、対応できる。今でも日本は、世界で最も富裕な国の1つであり、高齢者は世界基準で見れば、富裕層である。
6.生命保険
保険は損する宝くじ、万一の当りに意味があるが、手数料が高く損する。トヨタは自分が金をもっているので、保険に入っていない。しかし、子供が幼く貯蓄のない家庭は、掛け捨て保険の、わずかな保険料で、家族の生活を守ることが出来る。これだけが、保険活用の原則である。
7.医療費
日本は医療費の大半を、死亡するまでの数日で使っている。高額医療費制度によって、医療費の大半が還付される。4,000万円の医療費がかかっても、自己負担は約1%、46万円程度だ。
8.教育費
都市部の公立中学は、警察のない社会である。義務教育によって、退学処分権利がないためだ。犯罪を防止する治安維持装置がないのだ。この中で生徒が強くなるには、学力成績が良くなくてはならない。教育への過大な出費は、大衆社会のリアリズムに裏打ちされている。
9.マイホーム
家は所有の喜びがあるという。しかし、現状4,000万円程度の投資になり、人口減少社会・中間層減少の社会では、極めてリスキーな投資になってしまった。当面賃貸でいき、高齢者になった時に、資産の範囲内で家を買えばいい。また、親が持っている家を、別荘として利用すればいい。教育投資に軍資金が必要なのだから。
10.資産運用
株式投資理論では分散投資がいい。最も良いのは、日経平均やTOPIXのETF(株価指数連動型・上場投信)を購入し、あとは何もしないのが最も賢明な投資方法だ。アクティブ・パッシブ型運用より成績がよいのが証明された(ノーベル経済学賞)。
老後とは、生活の糧を労働から得るのではなく、年金と資産運用のみに依存することだ。金融市場・投資を学ぶ理由はここにある。
人的資本論をベッカー(ノーベル経済学賞)が唱えた。健康・人間関係を含めた人的資本が、社会の富の大半を占める。それに比べたら貯金の多寡やマイホームの有無は意味がない。裕福な資産家は別として、ほとんどの人は、人的資本を上回る実物資本を持つことはない。
11.幸福
幸福の形に諸説はあっても、「自由」が幸福の条件であることに異論はない。また、生きる条件は、何者にも依存せずに、自分と家族の生活を守ることのできる経済的独立を達成する事だ。一方、自由や富が幸福な人生を約束するわけではない。それは未知の世界を旅する通行証のようなものだ。