食卓の日本史と経済学(1)和食へ

食卓の日本史と経済学(1)和食へ

家庭の食事の基本は、「美味い早い安い」である。動物は食べ物と水と空気がないと死んでしまう。食べ物はお金と結びついており、経済によって、食事=健康が決まるといっていい。また、風土・文化とも結びついている。日本人の食事の歴史と経済環境を勉強します。

1.米作りとご飯の歴史

日本の1万年前は縄文時代であった。日本人は日本列島に閉じ込められ、そこで採れる食材で生きてきた。幸い日本は温暖で、水・空気にも恵まれている。石器と焚き火と土器と竪穴住居で生活した。木の実、山草、キノコ、小動物、野鳥、魚貝類、磯の生物、海草を土器で煮炊きして食べていた。1万年にわたる定住生活、世界最古の土器類など和の文化は、特殊であった。二千数百年前、稲作の技術が伝えられ、食料に余裕ができ、日本国ができ、弥生文化が発展した。米は1粒まくと100から2000倍に増える。それ以来、明治になるまで、稲作が日本の国・経済を支えてきた。750年大仏建立以来、肉食は避けられた。米と漬物で暮らすには、1人1日5合、年に1.8石必要とする。室町時代に麦が一般化されても、米は常に不足気味であった。三度のご飯を食べるのは、250年間、平和が続いた江戸時代からである。1汁2菜(ご飯、みそ汁、漬物、野菜煮物、煮豆、目刺しなど)であった。混ぜご飯、雑炊やお茶漬けも多かった。明治時代まで続いた。明治政府は、国民の体格向上を目指し、洋食化を計ったが、すきやき・カレーライス・カツ・コロッケ・アンパンくらいしか普及しなかった。文化とコストの問題のためだ。敗戦後、昭和40年代から、輸入小麦、肉、豆、油が、安く大量に入ってきて、パンと肉料理が増え、米を食べるのが戦前の3分の1になり、1人1日1合(茶碗2杯)になった。カロリー数は1900calから2100calへ、栄養バランスもとれ、日本人の体格が身長+10cm、寿命は戦前50歳弱が現在は80歳代に伸びた。

2.日本料理

箸は聖徳太子の頃から使い始めた。箸だけで食事をするのは、日本のみである。食べ物は箸で摘んで、口に入るほど小さく調理する。平安時代の貴族の宴会は現代の和食材と大差なかった。鎌倉時代、宋より道元禅師が精進料理を持ち込んだ。殺傷戒に従い、鳥獣、魚貝を使わず、野菜、豆、芋、豆腐などを味噌、醤油、油で調理する料理である。武士の宴会料理は本膳料理という。飯、汁、菜(野菜と魚・肉)、漬物を組み合わせたものである。茶の湯の懐石料理、江戸料亭の会席料理は本膳料理の品数を少なくしたものである。江戸の町人社会は、鮨、蕎麦、うどん、鰻、天ぷらが誕生し、1汁3菜(ご飯、みそ汁、お新香、魚貝、野菜煮)の和食になった。

3.酒と調味料

縄文時代より、酒があった。日本酒は戦前までは酒の7割を占めていた、戦後はビールが7割を占めるようになった。調味料の味噌・醤油は飛鳥・奈良時代に伝えられた「ひしお」がルーツである。蒸した大豆、麦、米と麹と塩を発酵させた味噌は簡単に作れるため、鎌倉時代から料理に使った。醤油は家庭で作るのが難しく、大量生産は江戸時代から始まった。出汁(だし)は昆布と鰹節からうま味を取るものである。江戸時代に発達した。調味料の塩と酢は応神天皇の時代から使われている。甘味料の味醂と砂糖は江戸時代後期からよく使われた。香辛料は禅寺で嫌われたこともあり、わさび、辛子、山椒、しょうが程度である。

4.江戸時代後期に和食確立

人口120万人の世界一の消費都市江戸は、1日3食になった。米、味噌、醤油、野菜、豆腐、魚などを食べていた。食べ物屋も繁盛した。甘酒、餅、田楽、お茶漬け、蕎麦、鮨、刺身、豆腐料理、玉子料理、こんにゃく、酒、天ぷら、鰻、うどん、煮豆、竹輪、納豆、塩辛、海苔、漬物、ところてん、飴、幕の内・花見弁当、お茶を飲む、和菓子(京菓子、羊羹、かりんとう、団子、煎餅、飴)など。

5.明治時代に肉食禁止令解禁、戦後日常化

文明開化で牛鍋が繁盛したが、西洋料理の普及はスローペースだった。大正時代になると、カツレツ、カレーライス、コロッケの3大洋食が人気を集めた。大正の食事は、1日2100cal、90%が米、麦、芋、豆であった。でんぷんからのカロリー摂取が9割であった。寿命も50歳以下であった。家庭の食事はご飯、みそ汁、漬物、野菜、大豆、たまに魚の1汁2~3菜であった。

6.戦後、和食は理想的な食事配分に

戦後は、1日1人2100calの内訳が、米の消費は半分以下に、肉類は13倍、油脂類は15倍になり、でんぷんからのカロリーが6割、タンパク質、油脂から4割を摂るようになり、理想的になった。身長が10cm伸びて、平均寿命が男81歳、女87歳になった。主食はご飯を1日2杯、食パンを1枚、麺類を1/3玉である。戦後の米国グローバリゼーション、所得向上、食品製造の機械化による輸入が可能にした。

7.今後の方向

気をつけていないと、今後は、1980年代の理想的な和食から離れ、西洋・肉偏重型、中国・油脂偏重型に偏り、肥満や生活習慣病が蔓延することになる。理想的な和食に戻り、維持していかねばならない。

食卓の日本史 橋本直樹